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不動産業界のDXとは?DXの本質と現状の課題を解説

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<執筆者>株式会社PMラボ 代表取締役 深澤成嘉

監修者 PMラボ深澤さん

2000年12月:株式会社東都エステート(現株式会社フォーラス&カンパニー)に入社。エイブルFC店にて賃貸仲介営業から複数店舗の統括、別法人の賃貸管理会社立ち上げ等に従事。

2017年1月:株式会社アミックスに入社。賃貸管理事業本部長として管理業務改革とデジタル化を推進。同年11月には、日本で初めての媒介契約による賃貸借契約の電子化を行う。

2022年2月:AAAコンサルティング株式会社の副社長就任。

2022年7月、賃貸不動産管理業のあり方をPMの観点から研究し実践するという目的を掲げ、株式会社PMラボを設立。現在に至る。

主な保有資格:公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、CPM(米国不動産経営管理士)、賃貸不動産経営管理士

「DX」という言葉を目にする機会が増えています。近年、あらゆる業界・企業でITやデジタル技術を活用したDXが推進されています。一方で「DX」を「デジタル化」や「IT化」と混同しているケースも少なくありません。

特に不動産賃貸業界は、他の業界と比べてDX以前に、そもそものデジタル化が遅れていると言われています。

本コラムでは、「DXとは?」についての定義を明確にし、不動産賃貸業界でも、特に定型業務が多い賃貸管理におけるDXの現状や、不動産賃貸業界でDXが進まない理由、どのようにアプローチをすることでDXを進めることができるのかということについて解説していきます。

不動産賃貸業界におけるDXの現状

不動産業界のDXの現状

最初にDXの基礎的な知識と、不動産賃貸業界におけるDXの現状について説明します。

そもそもDXとは何か?

DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で、デジタル技術を用いることで、生活やビジネスを変容(transform)させることを指します。

しかし、実際には「DX」の意味を誤解し、業務プロセスやコミュニケーションの手段をデジタル技術に置き換えるだけの、いわゆる「デジタル化」や「IT化」と混同して捉えられていることが多く見受けられます。(厳密にいえばデジタル化とIT化も意味が少し異なりますが、ここでは同義として扱います。)

「デジタル化」や「IT化」の「化」とは、従前の物や事を変える、変化させるという意味です。したがって、ここで言う「デジタル化」とは、例えば、従来の紙や郵送、FAXなど、アナログで行っていた業務をデジタルに置き換えることを指します。

対して「DX」とは、「デジタル化」や「IT化」されたあらゆるものを活用し、生活やビジネス全体を「変容」させるプロセスそのものを意味します。

DXの推進は、国家全体で取り組まなければならない大きなテーマです。経済産業省が2018年9月に発表した『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』では、2025年までにDXにより解決すべき課題が山積していることを指摘しています。

そして、この状況を解決できなければ、2025年以降の経済損失が、最大で年間12兆円に上ると示唆されています。これは、現在のおよそ3倍の額で、「2025年の崖」とも言われています。こうした背景からも、DXの推進が喫緊の課題であるということが分かります。

出展:『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』経済産業省

不動産賃貸業界にDXが必要とされる理由

そもそものDXの意味についてご理解頂いたところで、ここからは、不動産賃貸業界におけるDXを、「デジタルを活用し、属人的になりがちな業務を標準化することで、社員の働き方が変容し、業務効率と生産性を上げること」であり、同時に「不動産賃貸業界の在り方を変革する」ことと定義して、解説していくことにします。

不動産賃貸業界でDXが求められている背景には、以下のような課題があります。

・業界特有の商習慣や作業の常態化(非効率的な業務の常態化)
・長時間労働やサービス残業による離職率の高止まり(慢性的な人手不足)
・インターネットを軸とした顧客ニーズの多様化

特に地方においては、労働人口の減少から働き手が圧倒的に不足しています。DXを推進することで業務効率と生産性を高めて、個々の社員の負荷を軽減し、労働環境や条件を見直すことは急務であるといえます。

例えば、従来社員や業務スタッフが行っていた、管理物件の契約事務や物件情報・顧客情報の入力といったデスクワークにおける定型業務を、システムによる自動化やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)に置き換え、社員一人当たりの業務量を適正化します。

そうすることで、社員は時間に余裕をもって業務に当たれるようになり、長時間労働が是正され、残業も無くなります。加えて、業務に追われることがなくなれば、ちょっとしたミスもより少なくなります。

また、社内のデジタル化が進まないこととは裏腹に、インターネットを使って情報収集することが当たり前となった顧客のニーズに対応していくことも重要になります。

昨今では、コロナ禍の影響もあり、物件探しの手法も大きく変化しています。ホームページやポータルサイトで、物件を選んで現地に内見に行くといった従来の流れだけではなくアプリやSNSを使って物件探しや内見を行うケースも増えています。オンライン内見のみで物件を決めるユーザーが、約2割というデータもあるほどです。

こういった顧客のニーズに応えるためにも、社内のデジタルやITに対してのリテラシーを高めることは必須です。

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不動産賃貸業界でDXが進むメリット

不動産業界のDXが進むメリット

不動産賃貸業界でDXが進むことによってもたらされるメリットについて、とりわけ煩雑な定型業務が多い賃貸管理の現場を例として検証していきます。 

2022年6月に賃貸住宅管理業法が施行されました。業法で主に規定されたのは、賃貸住宅における入居者対応に関することに加えて、賃貸住宅の維持保全・修繕とそれらの実施状況についての定期報告などです。

とはいえ、従来の業務が根本的に変わる訳ではなく、賃貸管理会社は法律に規定された範囲で、従来通り定型業務をきちんと行うことにより、オーナーとの管理業務委託契約上の目的を果たすことができます。

しかし、賃貸管理を業法ではなく、プロパティ・マネジメント(以下PM)の側面から見ていくと事情が少し異なります。なぜなら、PMの本来の目的は「物件の価値を最大化し、オーナーの満足度を高めること」であるからです。

PMには、物件の稼働状況を適時報告し、問題があれば改善策を提案するといったオーナーとのリアルタイムなコミュニケーションが非常に重要になります。

にもかかわらず、多くの賃貸管理会社は定型業務に追われ、かつ慢性的な人手不足と相まって、本来はコア業務であるはずの物件の価値を向上させるための提案が後回しになっているのではないでしょうか。

そういった業界の現状が、DXを推進することによりどのように変容し変革していくのか。さらに具体的な事例で解説していきます。

人手不足解消と社員の満足度向上

DX推進により、慢性的な人手不足が解消し、ひいては社員の満足度が向上します。

業務スタッフが手入力で行っているデータ入力作業は、RPA(Robotic Process Automation)やAIを活用することで自動化し、より少ない人手で業務を回すことが可能となります。BPOを導入するにしても、業務を省力化した上であれば、掛かるコストも大きく変わることでしょう。

また、更新業務や解約受付をWeb化すれば、契約者がSMSのリンクから入力フォームに必要な情報を直接入力するだけで手続きが完了します。

業務スタッフが電話や郵送・FAXで契約者とやり取りしていた手続きに比べると、人手もかからず業務コストは激減します。

煩雑な定型業務を省力化しながら回せるようになれば、社員は働き方をシフトさせることが可能です。自ら作業していた時間を、業務スタッフやBPOを含めた業務全体を俯瞰し、マネジメントすることに充てられるようになります。

各部門で少数精鋭化した社員はマネージャーとなり、業務にあたるチームスタッフの労働時間を適正な範囲で管理しながら、サービスの質と生産性を向上させていくのです。

社員の仕事に対するモチベーションが上がり、満足度が向上するのは言うまでもありません。

業務効率化によりコア業務に集中できる

DXを推進することで、業務効率が上がり、社員がコア業務に集中できるようになります。

アナログであった情報がデジタル化すれば、情報共有の範囲が広がり、拠点にこだわることなく、外部パートナーとのリアルタイムな連携が可能となります。

前段でも触れたように、定型業務をBPOで外部パートナーに置き換えることで、社内から煩雑な作業や電話対応がなくなります。結果として、定型業務に追われていた社員は、物件の価値向上やオーナーとのコミュニケーションといったPMでも本来最も重要なコア業務に時間を割き、集中することが可能となります。

働き方が変容しコア業務にシフトした社員には、企業のキャリアパスの一環として宅地建物取引士や賃貸不動産経営管理士といった国家資格はもとより、各種コンサルティングに必要な資格取得を推奨しましょう。

残業がなくなることで、社員は個人のスキルアップに時間を充てることができるようになります。PMに関する業務に加えて、相続などを含めたアセット・マネジメントの領域までをカバーするべくキャリアに必要な専門知識やスキルを身に付けることで、物件オーナーに対して資産コンサルタントとしての業務に当たることも可能となります。

また、賃貸住宅管理業法が制定されたことで、今までは、専門業者任せになりがちであった、賃貸住宅に関わる建物の維持保全・改修といったBM(ビル・メンテナンス)に関する業務が、今後は賃貸管理会社の新たなコア業務として重要になっていきます。

オーナーとのコミュニケーションの機会を増やし、いままで後回しになりがちだったオーナーへの提案が活性化することで、さらなるビジネスチャンスが生まれるのは言うまでもありません。

こういった流れは賃貸仲介業の場合も同様です。例えば、各種ポータルサイトや自社ホームページへの物件情報の入力といった定型業務を、デジタル活用とBPOにより効率化します。手の空いた営業スタッフは接客だけでなく、反響対応や追客といったコア業務に注力することが可能となります。

個々の接客や反響対応をより丁寧に行うことで、顧客満足度も上がり、紹介顧客の獲得など良い循環が生まれ、ひいては業績アップに繋がることでしょう。

DXは、社員がコア業務に集中できる環境を構築することに繋がり、社員のスキルアップがもたらす結果として、顧客満足向上と企業の収益アップを同時に実現します。

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不動産賃貸業界のDXは何故進まない?

不動産業界のDXが進まない本当の理由

DXのメリットについて、色々と事例を交えて解説してきました。しかし実際にDXが実践されているケースは、必ずしも多くはありません。特に不動産賃貸業界は属人性が強く、他の業界と比べてもDXがなかなか進まないと言われているのが現状です。

総務省が発表している「我が国におけるデジタル化の取組状況」の調査結果を見ても、不動産業の内およそ6割の企業がDXを「実施していない、今後も予定なし」と回答しています。

また、実施していると回答している4割の企業についても、実施しているのがDXなのか、はたまた単にデジタル化・IT化をもって実施していると回答しているのかは怪しいものです。

参照:総務省|令和3年版 情報通信白書|我が国におけるデジタル化の取組状況

ここでは、不動産賃貸業界のDXが進まない理由について検証します。

「DX」という言葉が独り歩きしているが、実態がよくわからないから

不動産業界の中でも、とりわけ高齢化した経営者や上層部には、「DX」という言葉に対して「なんだか難しそう」「若い人が盛り上がっているだけで我々には関係ない」と感じている方が、多くおられるのではないでしょうか。

そもそも現在の不動産業界を支えてきた企業の経営者は、昭和から平成の時代に、パソコンやインターネットなどのデジタルとは無縁の世界で、スーパーマンパワーをもって事業を推進し成功を収めてきたという側面があります。不動産業界でDXが進まない理由として、そういった過去の成功体験があるが故、特に歴史のある企業ほどDXが進まないといったこともあるのではないでしょうか。

実際のところ、不動産業界は他業界と比べても高齢化が顕著に進んでいます。国土交通省が公表しているデータによると、2015年時点で60歳以上の就業者が約5割。業態別における社長の平均年齢を見ても、61.7歳で調査対象の業種(サービス業、製造業など7業種)のうち最高となっています。

出典:不動産業ビジョン 2030 参考資料集 - 国土交通省

しかし業界が高齢化しているとはいえ、例えば近年注目を集めている「電子契約」とは、言ってしまえば本来「紙」に記名押印していた契約書面の取り交わしを改ざんできない「PDFファイル」に置き換えているだけです。

紙をPDFに置き換える”だけ”で売買契約や請負契約から印紙代などを無くし、費用を大幅に節約できる他、郵送など「紙」の契約書類が移動する時間を無くし、顧客とのスムーズな契約締結が可能となるのです。さらに、紙の書類がなくなることで保管スペースも削減できます。

文章をペンで「書く」ことから電子デバイスを用いて「打つ」ことに置き換わったように、「従来アナログ的に当たり前のように行ってきた業務をデジタルに置き換えるだけ」と捉えれば、デジタル化やDXといった言葉も身近に感じることができるのではないでしょうか。

業務のすべてをデジタル化しなくてはいけないと勘違いしている人が多いから

「業務をデジタル化する」と聞くと、自社で運用しているあらゆる業務を一気にデジタルに置き換えなければいけないと勘違いする人が多いようです。

ただでさえ煩雑な業務に追われて忙しい現場の社員からすれば、企業をあげてデジタル化の推進など新たに始めようものなら、抵抗感が増すのは無理もありません。

DXが進まない理由としては、むしろ前述した高齢化している経営者よりも、こういった現場の空気感がネックになっているケースのほうが実は多いのかもしれません。

単にDXを「よくわからない」「面倒そうだ」という固定観念や思い込みで興味を示さないどころか社内に取り入れないのは、時代に逆行することでもあり、重大な機会損失につながります。 

不動産会社それぞれに独自の業務フローやルールがあるから

不動産賃貸業界は、企業ごとにそれぞれ独自の業務フローやルールが存在することにより、DXを推進する上での難易度が高くなっています。

ではなぜ企業ごとに独自ルールがあるのかというと、大きな原因として地域によって商慣習や用語が微妙に違うということが挙げられます。

例えば「敷金・礼金」は、少し前まで大阪では「保証金・解約引き」と言われていました。また、契約更新手続きにおいても、更新料のありかたや更新ごとに更新契約書を取り交わす慣習があるなど、地域によって業務が微妙に異なるというのが実情です。

そういった商慣習の違いから、業務を標準化する以前の問題として、何をもって標準とするかを各管理会社は意識することすらなかったといえます。不動産賃貸業界が、企業ごとに独自の進化したルールによって運用されてきたのも無理はありません。

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不動産業界でDXを進めるにはどうしたらいいか?

不動産業界でDXを進めるにはどうしたらいいか?

不動産賃貸業界のDXが遅々として進まない理由について解説してきましたが、では具体的にどうすればDXが進むのでしょうか。

業務の一部でもいいのでデジタル化してみる

まずはデジタル化からといっても、いきなりすべての業務をデジタルに置き換える必要はありません。できることからできる範囲で始めましょう。

何か新しいことを始めようとすると、めったに起こることがない対応が困難なレアケースをもって、全ての可能性を否定するといった考え方をされることがあります。

前段でデジタル化を、「文字をペンで書くことから、電子デバイスで打つことに置き換わるだけ」と例えましたが、だからといってペンで書くことがなくなったわけではありません。

顧客の状況に応じて、紙やFAX・郵送といったアナログな手法でしか対応できないケースに対しては、引き続きアナログで対応すれば良いのです。

「できることからデジタル化」のスローガンのもと、仮に目的と効果が分かりやすい業務のペーパーレス化から始めるのであれば、まず着手すべきは「どの業務の紙やFAX・郵送を無くすか、無くせるか」を考えることです。そして方針が決まれば実践し、短いサイクルでPDCAを回しながら少しずつでも常態化していけば、自ずと社員の意識が変わり働き方が変容することでDXが進んでいきます。

業務の標準化を進める

賃貸住宅管理業法が新たに施行され、さらに賃貸不動産経営管理士の資格が国家資格となり、前段で述べたような地域による慣習の違いや用語の違いがある意味全国的に標準化されてきつつあります。

DXを推進しようとする今こそ、地域慣習を考慮しつつも、長年当たり前のように運用してきた独自ルールや属人化した業務を見直し、標準化するチャンスであると言えます。

標準化した業務は、「SaaS」と呼ばれるサービスに最適化することで、コスト面・運用面において最も効果を発揮します。

SaaSとは「Software as a Service」の略語で、「サース」または「サーズ」と呼びます。最低限押さえておくべきSaaSの特徴やメリットは以下の通りです。

SaaSの特徴・メリット インターネット環境があればどこからでもアクセスできる
複数のメンバーで編集や管理が同時に行える
自社でソフトウェアの開発が不要なため、導入コストが安い&早く導入できる
ユーザー側での管理(アップデートやセキュリティ対策)が不要なため、ランニングコストがかからない
 ↳アップデートやセキュリティ対策はサービス提供者が行う

こうしたSaaSが持つ特長やメリットを最大限に生かせれば、不動産管理会社は常に最新で最も効率的な業務フローを低コストで運用しながら、不動産業務を行うことが可能となります。

不動産賃貸業界は、会計ルールや法律改正の影響で、業務フローを変えなければいけないタイミングが度々訪れます。そうした際にもSaaSは情勢に合わせて最適にアップデートされるため、自社で一から業務フローやシステムを組み直す必要はありません。DX推進とあわせて実践することで、業務効率と生産性を上げつつ、将来的なシステムに関するリスクヘッジとかかるコストが大幅に軽減されます。

ちなみに代表的なところで、Microsoft 365やGoogle Workspace、Salesforceなど一般的に利用されているサービスがSaaSに当たります。どのサービスも、アプリケーションごとに汎用的な範囲で自由度はあるものの、決して企業ごとにカスタマイズしません。SaaSについて、イメージが掴めたでしょうか。

従来、賃貸管理における基幹システムについては、特に一定数以上の管理戸数を抱える中規模以上の管理会社が、独自の業務フローやルールをシステムに乗せるべく、自社システムの開発や汎用システムのカスタマイズに膨大なコストをかけてきました。

しかしながら、前述した経済産業省の『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』が指摘するところを引用すると、「既存システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化する中では、データを十分に活用しきれず、新しいデジタル技術を導入したとしても、データの利活用・連携が限定的であるため、その効果も限定的となってしまうという問題が指摘されている。」そうで、まさに独自開発やパッケージソフトのカスタマイズを繰り返すことによる時代にそぐわないシステムが抱えるリスクも近年大いに取りざたされています。

むしろ、まだ管理戸数が少なく、これから管理を伸ばしていこうという企業にとっては SaaSの特徴・メリットを最大限に享受するチャンスと捉えることもできます。

賃貸管理に特化したSaaSを採用することで、莫大な導入コストをかけることなくシステム構築が可能となります。

そして、SaaSに業務を合わせていくだけで、管理業務のノウハウがなくても社内の業務フローが標準化されます。

DXの入口としてデジタル化を具現化するには電子申込・電子契約がおすすめ

DXを始めるにあたり、デジタル化の目的がわかりやすく、労働環境や業務が変革するという意味で効果が一番顕著に表れるのが「ペーパーレス・郵送レス・FAXレス」を実現することです。

そのための具体的な事例づくりには、筆者が2017年から取り組んできた「電子申込・電子契約」がお勧めです。

従来、FAXで送受信していた手書きの入居申込書が電子申込されることで、個人情報のシステムへの多重入力をする必要がなくなります。もちろん、入居希望者が直接スマートフォンを通じて申込フォームに入力するので、誤字脱字のリスクも下がります。仮に間違っていても本人が入力しているのでトラブルになることもありません。

電子申込された入居希望者のデータは、家賃保証会社と連携することで審査スピードが飛躍的に早くなります。審査が完了した入居者のデータは基幹システムに連携し、契約書のデータが生成されます。電子契約のアプリにアップロードされた契約書のデータはSMSやメールを通じて入居者へ送信されます。入居者は契約内容をスマートフォンで確認し、ワンタップすることで電子契約が締結されます。

このように、電子契約は紙で印刷した契約書の郵送にかかる時間を無くします。万一契約に必要な添付書類に漏れがあっても、入居者は日本全国どこに居ても、スマートフォンで撮影しアップロードすることで一瞬にして解決します。

また、電子申込・電子契約を始めるにあたっては、大規模なシステム投資や既存のシステムを入れ替えるなどといった、大掛かりな準備は必要ありません。

初期費用さえ支払えば良く、わずかなランニングコストと利用件数に応じた課金はありますが、郵送コストと比較しても安価で、むしろコストダウンにつながります。始めたものの、どうしても業務になじまなければ、いつでも止めることもできるのです。

世の中では、DXが進まない不動産賃貸業界とは裏腹に、宅建業法が改正され、アナログの象徴であった書面交付・記名押印といった物理的なプロセスが、法律的にはなくなりました。

法律改正が示すデジタル化に向けた時代の流れと、DXによる業務の変容を一番体感できるのが、この入居申込から契約に至るプロセスのデジタル化です。

できることからという意味では、電子契約のみで始めることができるので、DXの入口として取り組まれてはいかがでしょうか。

まとめ

昨今、「業務効率化」や「生産性向上」という言葉が当たり前のように取り沙汰されています。業務フローを見直したり、システムを刷新したりと、従来の仕組みを変えようという企業の取り組みも盛んに行われています。

しかし折角の新しい取り組みも、煩雑な定型業務に追われている社員からすれば、新たな残業の種が増えるだけといった受け取られ方をされることが多いのが現状です。

DXを推進する上で企業がまずやるべきことは、新しい取り組みが残業の種にならないようにデジタル化やBPOを用いて職場環境を整備して、今いる社員を定型業務から解放することです。

そして定型業務により作業員と化していた社員をマネジメント人材へと育成するのは勿論のこと、物件オーナーに対して管理物件の資産価値向上についての提案ができる、高度なスキルを持った人材に変容させていくことです。

またDXは、社員のキャリアアップを促進するだけではありません。社員が退職することや、産休や育休による一時的な休職による体制の変化、テレワークなど多様な働き方に臨機応変に対応できる組織づくりにも繋がります。

このように、DXは労働環境を変革し、企業の働き方改革をも後押しします。

社員満足とやりがいが明確になれば、離職率を押さえることはもとより、新たな人材を採用していく上でも他社との差別化が図れます。

DXがもたらす世界観とは、単なるデジタル化による業務効率と生産性向上を指すのではなく、社員の働き方が変容することで、不動産賃貸業界における企業の収益構造やビジネスモデルそのものを変革させることです。

いかがでしたでしょうか。不動産賃貸業界でDXが進まない理由と、DXを進めるためのポイント、DXがもたらすメリットと世界観について解説してきました。DX推進に当たり、本コラムが少しでも参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人いえらぶ編集部

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