ゴミ屋敷の主を退去させることはできるの?対処法をご紹介
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ある日、入居者から電話が入りました。
その内容は「隣の部屋から異臭がしてゴミがあふれている」というものでした。
異臭の他にも、外に出ているゴミの崩壊や火災リスク、害獣・害虫の増加による近隣住民への被害など、ゴミ屋敷のリスクは非常に大きいのです。
それに加え、分譲マンションなどでは資産価値が下がることもあります。
ニュースでも取り沙汰されることがあるゴミ屋敷ですが、その部屋の借主に対して管理会社は、どのような対応を取ることができるのでしょうか?
どんな部屋でもゴミ屋敷になる可能性があります
ゴミ屋敷と言っても、その程度は様々です。
外観を見れば分かるものから、部屋の扉を開けない限り分からないものまであります。
賃貸借契約を結んだ時はゴミを溜めてしまいそうに見えなかったが、些細な事をきっかけに物が捨てられなくなってしまうこともあります。
環境省が行った調査では、過去5年間で5,200件以上のゴミ屋敷事案が発生していることが明らかになりました。一方で改善率は50%を下回っており、認知されたゴミ屋敷の半分以上は改善されていません。
出典:令和4年度 「ごみ屋敷」に関する調査報告書
誰でもゴミ屋敷の主になる可能性はありますし、いつ自分の会社が管理している物件で起こるか分かりません。その危険性とは常に隣り合わせということです。
部屋をゴミ屋敷としてしまう人は精神的な辛さを抱えているケースが珍しくありません。
中には公務員など、一見ゴミを溜めなさそうな人がゴミ屋敷の主だったということも結構あります
管理会社はクレームの電話を受けて初めて認識することも多いようです。クレームの電話が入ってしまった場合、管理会社はどのような対応をすると良いのでしょうか。
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ゴミを勝手に処分していいの?
あなたの目からはゴミに映るものたちが、部屋からあふれていたとして、それを捨てることは可能なのでしょうか。
この答えは、NOです。
たとえゴミに見えても、入居者の所有物に変わりはありません。
管理会社の仕事は物件や入居者の管理ですが、所有物を勝手に捨てる権利まではありません。物件のオーナーである大家さんも手出しできない権利です。
さらに、本人が自分の持ち物と言い張るなら「私有財産」扱いになるため、仮に勝手に捨てたとしたら「窃盗罪」にあたる可能性もあります。
ゴミ屋敷からあふれているゴミを勝手に捨てたことで、トラブルに発展するケースもありますので、決して無断で捨てないでください。
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通達文を送ろう
ゴミを捨ててはいけないのなら、どのような対応をすれば良いのでしょうか。
まずは、ゴミ屋敷の主宛に文書を送ります。
ゴミをいつまでに捨てないとわたしたちがゴミを捨ててしまいますよ、賃貸借契約も解除しますよという内容のものです。
ゴミ屋敷の主になんの断りもなく、ゴミの処分や解約を行うとトラブルは深刻化します。
この通達で期日までに対応がないからといってすぐに強制撤去や退去ができるわけではありませんが、通達文を出したという証拠を残し、それから先の対応の合法性を確実なものにしましょう。
その後、対応が見られなかった場合、行政へ相談しましょう。
自治体によっては、ゴミ屋敷事案に対して条例を設けています。中には、自治体が代わりにゴミの撤去を行う「強制代執行」という項目を設置している自治体もあります。
条例は自治体ごとに異なるため、管理物件が所在する市区町村の条例を確認してみましょう。
参考:令和4年度 「ごみ屋敷」に関する調査報告書 P.25-32
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ゴミを捨てない借主を退去させることはできるのか
幾度となく「ゴミを捨ててください」とお願いをしても捨てない借主に対して、ゴミ屋敷にしたという理由で退去を命じることは可能なのでしょうか。
借主には、賃借物である部屋を保管し管理する義務があります。これを守らないことは「善管注意義務」に違反すると考えられます。
ゴミ屋敷にしたことが契約に違反するものであるとして、契約解除ができないわけではありません。
ただ、すぐには契約解除できないので、かなり長期的な対応が必要です。ずっと注意し続けたという事実がなければ、裁判になった時にはこれまでの対応が不十分だと判断されてしまいます。
何年も通達をしていたが、聞いてくれないので解除しますと言えるだけの期間と労力が必要となるわけです。
過去には、このような判例もあります。
「社会常識の範囲をはるかに超える著しく多量のゴミを放置する行為は、賃貸借契約を解除する事由に構成するものと言わざるを得ない」
(東京地裁 平成10年6月26日判例より引用)
ここで重要なのは以下の2点です。
・賃貸借契約時に「賃借人は貸室内において危険・不潔・近隣住民への迷惑となる行為をとってはならない」という内容の契約をしていた
・貸主は借主に対して、何度もゴミの処理をしてもらうように通達していたが、応じなかった
判決内容にも「貸室内でのゴミの放置状態が多少不潔であるからといって、賃貸借契約を解除できない」とあり、仮に条約や契約事項に違反していても貸主が即時に契約を解除することはできないのです。
そこで貸主は以下の3点を踏まえ、明渡しを要求しました。
・2年以上にわたって、社会常識を遥かに超えるゴミを放置していた。
・貸主が消防署から貸室内のゴミによる火災リスクがあると注意喚起を受けた。
・衛生上の問題、また火災発生の危険性から、貸主はもちろん近隣住民への被害が大きい。
この要求ができるまでに、行ったことは以下の3点です。
①口頭・文書で注意。改善がない場合は何度も注意する
②改善が見られない場合、内容証明郵便を発送し「期日までにゴミを処分すること」「それができない場合、一定期間内に退去を求める」という内容の通達をする
③内容証明を送っても退去に応じない場合、明け渡し訴訟
このように労力と時間がかかり、現実的に考えると厳しい現状があります。
まとめ
ゴミ屋敷になってしまった場合の対応について今回は紹介しました。
重要なのは以下の3点です。
①ゴミを勝手に捨ててはいけない
②合法性を高めるためにも、通達文を出したりゴミ屋敷の主にゴミを捨ててとお願いをしにいったりする
③②を長期間根気良くやり続ける
ゴミ屋敷の対応は、非常に根気がいるものであると言えます。
一見ゴミに見えても、当人にとってはそうでないことはあります。勝手に捨ててしまうと、所有物の侵害として訴えられかねません。
実力行使に出る前に、しっかりと通達し、行政へ相談してください。
原状回復のための費用も、ゴミ屋敷にしたからといって経年劣化の分は請求してはいけません。
上の3点を大切にしながらも、ゴミ屋敷の問題はスピーディーに解決をすることが求められます。
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